あの日もこんな雨だった。









「寒・・・」
夏でも雨の日は気温を下げ、突然の雨に濡れた身体は温かさを失っていた。
煙草を吸いたかったが、服と共に水に濡れ、使い物にはならなかった。
「はい」
急に自分に降りかかるものが消えた。
上を見上げると赤い傘が自分を包んでくれていた。
そして目の前には白い足。
「あの・・」
あ、いきなりゴメンなさい。濡れてるから、寒いでしょう?」
「ありがとう。でも、僕はずぶ濡れだし、君が使ったら良い」
きっと善意から来るものだろう。でも、自分にはどうでも良いことだった。
雨の日はいつも、どうでも良くなる。
「私には必要ないんです」
「・・・え?」
にっこり微笑んでそう言った。
傘を差していなかったのだろうか、僕と同じ位濡れている。
よく見れば見るほど彼女は誰かに似ていた。そこいらにいるような女性とは違う雰囲気があった。
自然と彼女の事を考えてしまう。無意識に。けれども記憶の隅に引っかかる。
「では」
「あのっ!待ってください!」
「はい?」
「傘を返したい」
「構いません。それにあなたは返せません」
微笑みは変わらぬままに。会話は続く。
「返せないってどういう・・!!」
スーッと音を立てるように目の前の彼女は段々と消えていった。
自分の目を疑った。
「ずっと見てました。雨の日、よくここに居るの。ずっと傘を渡したくて」
最後に声だけが響いた。
つう、と自然に流れた涙を雨のせいにした。
赤い傘を強く握り締めて。
「ひどく、君に似ていたよ」









雨はまだ降り続く。





















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