彼が放ってゆく言葉は重く、深い、彼の心の闇なのだろう。
ただ、淡々と彼は話し続けた。
「兄の死で母は狂った。舞台に立つことは無かったし家の中でも何かすることは無かった」
彼の瞳から視線を逸らせば何かが壊れるような気がした。
「父は母と僕を置いて出て行って、益々理性を保てなくなった母はある日、自殺した」
『死』という事をこうも簡単に発する人だとは思わなかった。
彼から発せられる『死』は何よりも重く、何よりも悲しい思いが詰まっているのだろう。
その度に、密は密ではなくなる。
「僕は一人、この家の片隅で何もせずに1日過した。何もしなくたっていつの間にか今日は終って明日になってる」
「・・今まで・・ずっと・・?」
「否、ある時気付いたんだ。僕が止まっても世間は動くし、時も止まらない。なら、動いた方がきっと・・動けたほうがきっと」
「きっと・・?」
「幸せなんだ」
密が、戻ってきた。
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