癲狂ー光ー


 初めてみた光は、何時頃見たかは全く覚えていない。確か、人工的に作られた蛍光灯のようなものだった気がする。暖かいとも感じられない眩しいだけの痛い光。其の灯りは白く、自分を照らし出すことしかしてくれなかった。まるで。

「御前の居場所は此処なんだよ」

そう、決め付けられたようだった。皮膚が痛くなりそうだった。
一瞬、太陽かとも思った。想像の中の太陽はもっと優しくて、暖かくて、強くて。其処に無くてはならない必要不可欠なものだ、と勝手に思っていた。其の光はどれだけ美しいのだろう、どれだけ神々しいのだろう。想像の中でも太陽は高く昇り、気高いものだった。けれど光だけは、蛍光灯のような白熱灯のようなものでしかなかった。それしか、知らなかったから。そうして蛍光灯はまた、僕を見下している。太陽のフリをした造り上げられた「化け物」が。そんな事人間のフリをした造り上げられた「機械」(ロボット)が言える科白じゃないか。


本当は鮮明に覚えていた。あまりにも強烈過ぎて記憶の中から消えていた。否、消していた。消したことにしておいた。


 生まれて間もない頃、何も無い白い部屋に僕は居た。天井には沢山の蛍光灯が敷き詰められていて、ひどく眩しかった。部屋が白以外のなにものでもない色に包まれていた。僕は寝台の上に拘束されていた。周りには白衣を着た大人達が僕を見ながら色々と話していた。何かを必死に記している人も居た。とにかく僕は動くことが出来なかった。
 僕は実験されている、と気付いた。触覚だの味覚だの僕の異常を話し合っていた。触れれば相手の皮膚の感触はわかったし、物を口に含めば味が口いっぱいに広がった。流石に唾液や汗は出なかったけれど人に罵られれば不快な気持ちにもなった。御前等と大して変わらないよ、そう思っていた。其の日は痛覚の実験だった。固定された腕に酸性の液体をかけられた。瞬間、悲痛に満ちたものが声帯を振るわせた。精密に造られた皮膚はドロドロと溶けて蒸発した。機械的な骨組みが剥き出しになって煙をあげていた。空気がシューと洩れるような音を立てて、僕の躯は鉄骨が支配しているのだと実感させられた。

 大人達は驚いていた、と思う。必死に其れを隠そうと努めていたので定かではなかったけれど。痛覚までもが僕に備わっていたから、僕は陽の当たらない場所(ここ)にいる。地上から何mも深い、暗い場所。燃え滾る焔と、冷たいタイルと、重たい孤独しか無い。食事をしなくても、眠らなくてもずっと生きていられる。躯と脳は成長していくみたいだけど、躯は一定期になると止まり脳は学習しないと覚えない。便利な躯だと思う、けれどとても虚しい。此処には僕だけが存在している。

 出来るなら、死ぬ前に一度太陽の光をあびたい。死ぬことはないと思うけど。でも良い。一度で良いから太陽が見たい。今思い返せば、あのとき嗚咽にも似た声を喘ぎを我慢して飲み込んでいたとしたら、僕は今太陽を見ることが出来ているのだろうか。




今は希望しかないんだ。夢ぐらい見させて?想像ぐらい許して。でも、さ。

たいようなんかほんとうにあるの?ねェ神サマ。




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